僕、成嶋彰人は私立享徳大学への入学を機会に家を出た。大学へバスで数十分ほどのマンションの一室が僕の新しい城だ。 高木や鮎沢真由子、佐々門、山村先輩。講義やサークル勧誘では新しく友達もできたけれど、『オカルト倶楽部』とかいうへんてこりんなサークルに振り回される羽目になったのは、やっぱりあの先輩たちのせいだ。 入学オリエンテーションを終え、僕は町の散策の途中で一軒の古い日本家屋を見つけた。日の落ちた夕闇の中、周りの闇を吸い寄せるようになお一層冷え冷えとした黒いシルエットを作り上げる、人気のない家。なぜだかわからないけれど、僕はその家を覗き込んだ。そのとき…僕を見つめる、一組の眼が、紅く光ったんだ。獲物を見つけた獣の嬉しそうな…。いや。まるで僕を待っていたかのように、紅い眼の『男』は、たしかに僕に微笑んだ。 その恐怖が忘れられないまま、数日後、大学のホールで誘われた語学学校の無料体験で、僕は心臓が止まりそうに驚いた。ノエル・シドーという講師が、あの紅い眼の男だったんだ！オカルト倶楽部である噂が取り上げられる。生徒が何人か行方不明になっている、という噂だ。しかも、町の病院に重度の貧血で担ぎ込まれる人が以上に増えているって。先輩は「絶対吸血鬼だ！」って言い切る。そんな中、僕の周りでもおかしなことが起こり始める。